人工授精は、排卵時期に合わせて子宮の入口からカテーテルを挿入し、子宮内腔へ処理された精液を直接注入する方法です。性交や射精障害、あるいは頚管粘液などに問題がある場合に有効です。タイミング療法とは以下の点で異なります。
- 精子の泳ぐ距離を短縮:精子が卵子に出会うまでの距離を短くします。
- 精液の調整:採取された精液を調整し、動きの良い精子を濃縮して子宮内に届けます。
人工授精は生殖補助医療のように採卵や移植の処置を必要としないため、女性の身体への負担が少ない不妊治療です。
人工授精の適応
人工授精の適応は以下の要件があります。実施する際はパートナーの承諾が必要です。
- 複数回のタイミング療法不成功例
- 軽度の乏精子症
- 性交障害、ED、性感染症、仕事の都合で性交渉が取れない場合
患者様のご希望に合わせて治療方法をご提案いたします。
妊娠率
人工授精1回あたりの妊娠率は約5~6%とされています。最初の3~4周期までは累積妊娠率が徐々に上がり、5~6回で横ばいになると報告されています。
回数とステップアップについて
4~6回の人工授精を行っても妊娠に至らない場合は、体外受精や顕微授精を含めた治療方針の見直しを検討します。必ずしも6回トライする必要はなく、ご夫婦の家族計画に合わせて治療計画を相談します。
費用について
1周期あたりの費用については準備中です。タイミング療法と同様の通院時にかかる費用に人工授精代が追加されます。
スケジュール
タイミング療法と同様の通院回数に、人工授精を行う日が追加されます。
- 1周期あたりの通院回数:3~5回(人工授精実施日に1回追加されます)
- 1回あたりの診察所要時間:15~60分(院内の状況によって前後する場合があります)
人工授精の精子処理は密度勾配遠心法にて精子を濃縮し、精子頭部の密度の違いから成熟した精子と未成熟の精子を分けます。
人工授精の方法
※処置前の注意点:処置による感染を防ぐため、感染症の検査(B型肝炎、C型肝炎、HIV、梅毒、およびクラミジア)を患者様ご本人およびパートナーに受けていただくことを推奨しています。
人工授精当日の流れ
- ご主人に受診していただき、採精室で採精、または自宅で採精した精液を持参していただきます。(凍結精子を使用することも可能ですが、妊娠率が3~4%に低下しますので推奨はしていません。)
- 精液の濃縮(所要時間:約60~90分)。この間、院内または院外でお待ちいただけます。
- 内診室で卵胞の状態や子宮の傾きを超音波で確認。
- 腟内に腟鏡(クスコ)を挿入し、腟内を洗浄。
- 子宮内に細いカテーテルを挿入し精液を注入。(疼痛を伴うことは稀。カテーテルが入りにくい場合は鉗子を使用することがあります。)
※処置後の注意点:処置後は特別な安静は不要で、運動や性交渉に制限はありません。腟内から液体が漏れ出てくることがありますが、ほとんどが洗浄液なのでご安心ください。
副作用・リスクについて
- カテーテルの挿入や鉗子の刺激による出血
- カテーテルの挿入や精液の注入による子宮内感染や腹膜炎(感染が起こった場合は抗菌薬の投与を行います)